兄ホデリを差し置いて弟のホヲリが王になった理由

捨て身の「火傷占い」によって身の潔白を証明したコノハナノサクヤヒメですが、本当は誰の子であったかはわかったもんではありませんね。当然、日向国の重臣の中には、しぶしぶ占いの結果に従ったものの、本当はニニギの子ではないのではないかと思った人は大勢いたはずです。特に怪しいのは長男のホデリでした。結婚前に誰と付き合っていたかなんて、よそ者のニニギたちには知りようがなかったですからね。子供が成長して顔がニニギと似ていなかったら、疑念はますます募ったことでしょう。一方で、結婚後しばらくしてから生まれたとみられる末子のホヲリなら、まず間違いなくニニギの子であったと思われます。

そのあたりの日向国の重臣たちの「心情」を『日本書紀』はよく言い表しています。火中出産の際に火が盛んな時に生まれた子がホデリで、火の勢いがなくなり火熱が引けるときに生まれたのがホヲリであったとしているんですね。私はこの炎を「疑念の炎」と読みました。

しかしながら日向国では長子相続が基本ですから、このままいけばホデリが次の王になってしまいます。疑心暗鬼派の重臣たちは、何とかしてホデリではなくホヲリに王位を継がせたいと思ったはずです。そのためにはホデリに致命的な失敗をさせる必要があったのではないでしょうか。そして綿密に計算した策略により、ホデリがあたかも失敗したように見せかけて、王位継承権をはく奪したと私は見ています。

どのような画策を企てたのでしょうか。
その謎を解くヒントが隠されているのが、あの有名な海幸彦山幸彦の物語なのではないでしょうか。

忘れた方のために、物語の復習をしておきましょう。
兄の海幸彦と弟の山幸彦はある日、それぞれの道具とともに「職業」を交換します。ところが山幸彦は兄の大事な釣針をなくしてしまうんですね。兄から非難され途方に暮れていた山幸彦は、シオツチノカミの協力を得て海神(ワタツミノカミ)を頼ります。そこで海神の娘に見初められ、結婚。無くした兄の釣針も発見し、それを兄に返します。その際、兄に呪いの呪文をかけて、懲らしめるという物語です。

何ともまあ、一方的でひどい話ですよね。大事な釣針をなくしたのは弟の山幸彦なのに、懲らしめられたのは兄の海幸彦です。でも、そうでもしないと、兄のホデリから王位継承権をはく奪して、弟のホヲリに委譲することはできなかったという苦肉の策としての物語なんですね。

つまりこの物語は、兄のホデリが何か大事なものをなくした責任を取らされた形で、王位継承権が弟に渡ったことを示唆しているわけです。

では、物語の中で大切なものとされた「釣針」は何を象徴しているのでしょうか。王位継承権が揺らぐぐらいの神宝であることは間違いなさそうです。釣針の形から連想されるのは、三種の神器のうちの勾玉でしょうか。

いずれにしても、ホデリは王継承者の印である大切なものをなくした責任を取らされたのだと私は考えています。もちろん、それはただの口実です。実際は記紀で示唆されているように、海人族を使った武力行使によって強制的に王位継承権を弟に譲らざるを得なくなるように仕向けたわけです。そうでもしなければ、同じ母親から生まれた兄を差し置いて、弟のホヲリが日向国の王になることはできなかったのではないでしょうか。

策略は見事に成功しましたね。記紀のホデリに対する記述を見ると、よくわかります。
『古事記』では、ホヲリの策略にかかり懲らしめられた兄のホデリは、弟のホヲリに頭を下げながら次のように言ったなどと書かれています。

「私はこれからのちは、あなた様の昼夜の守護人(まもりびと)となってお仕えいたしましょう」
それで今日に至るまで、(ホデリの子孫の)隼人は、(ホヲリに攻められて)海水に溺れたときの様々なしぐさを、絶えることなく演じて、宮廷にお仕え申しているのである。

『日本書紀』に至っては、もっとひどい書かれようです。「なぜ兄なのに弟に服従しなければならないのか」と問うホデリに対してホヲリは攻撃の手をゆるめませんでした。そしてとうとう次のように言ったなどと書かれています。

兄は全く困って逃げきるところもなく、罪に伏して言われるのに、「私は過ちをした。今後はあなたの子孫の末々まで、あなたの俳人(わざびと:仕えて演技などをする人)になりましょう」と。別伝に「狗人(いぬびと:犬吠えをして番犬の役をする人)として仕えます。どうか哀れんでください」と。
(中略)
それでホノスセリノミコト(ホデリの別名)の後裔のもろもろの隼人たちは、今に至るまで天皇の宮の垣のそばを離れないで、吠える犬の役をしてお仕えしているのである。

このように、本当なら正統な王となるべきホデリが番犬にまで貶められていますね。
どうしてそうなったかは、もうおわかりですね。
明らかにニニギの子ではなかったからです。

そのことを知らないと、海幸彦山幸彦の物語を本当に理解することはできないのだ、ということをわかっていただけましたでしょうか。
(続く)
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