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薔薇シリーズ123 「いい言葉(4335)」

▼半獣神の午後5(マラルメ26)
二人の美しいニンフを略奪した半獣神は、何とニンフに対して、あんなことや、こんなことをしてしまうんですね。もちろんマラルメは、はっきりとは描写しませんから、私のような読者は「妄想」を膨らませて、かってにストーリーを作ります。

情熱的で肉感的なニンフと青い目の清純なニンフがいることはすでに詩の最初の部分で語られていましたが、半獣神の強引な振る舞いに、最初は二人とも怒ります。でもどうやら、情熱的なニンフのほうは、まんざらでもなかったようです。次第に興奮して気持ちも高ぶっていきます。最初に「真昼の熱い風」にたとえられた理由もわかります。

ところが清純なニンフは、半獣神が腕の力を緩めた隙をついて逃げ出すことに成功、冷ややかな視線を半獣神に投げかけます。情熱的なニンフも相棒が逃げ出したので、その後を追います。あと一歩で「獲物」を取り逃がした半獣神は、半べそをかいて戻ってくるように懇願します。しかし、そのような必死の懇願も無視されて、二人のニンフは去っていきます。一人になった半獣神には、「裂けた柘榴(ざくろ)」と「蜂の羽音」だけが残されます。

Tu sais, ma passion, que, pourpre et déjà mûre,
私の情熱よ、お前は知っている。すでに熟れて真っ赤な

Chaque grenade éclate et d’abeilles murmure ;
柘榴の実は割れ、ミツバチの羽音はささやく。

Et notre sang, épris de qui le va saisir,
私たちの血潮は、それを捉えようとするものに心を奪われながら、

Coule pour tout l’essaim éternel du désir.
情欲の永遠の群れの中へと流れていく。

À l’heure où ce bois d’or et de cendres se teinte
この森が黄金と灰色に染まるとき、

Une fête s’exalte en la feuillée éteinte :
ひとつの祝宴が、枯れ行く葉陰に向かって高まっていく。

Etna ! c’est parmi toi visité de Vénus
エトナ火山よ! 美の女神ヴィーナスが訪れ、

Sur ta lave posant tes talons ingénus,
お前の溶岩の上を無邪気にかかとで踏み付ける。

Quand tonne une somme triste ou s’épuise la flamme.
悲しい眠りが響くとき、あるいは燃え盛る炎が尽きるとき、

Je tiens la reine !
私は女神を抱きしめるのだ!


O sûr châtiment...
おお、確かなる罰・・・


Non, mais l’âme
いいや、だが、言葉を失った魂も

De paroles vacante et ce corps alourdi
重みを増したこの肉体も

Tard succombent au fier silence de midi :
やがて、真昼の勝ち誇った沈黙に屈するのだ。

Sans plus il faut dormir en l’oubli du blasphème,
ならば、罪の咎めを忘れて、ただ眠ろうではないか。

Sur le sable altéré gisant et comme j’aime
乾いた砂の上に横たわり、葡萄酒を育む

Ouvrir ma bouche à l’astre efficace des vins !
太陽に向かって口を開き、光で喉を潤すように!


Couple, adieu ; je vais voir l’ombre que tu devins.
二人のニンフよ、さようなら。薄れ行く影となったお前を見送ろう。


ここで『半獣神の午後』は終わります。
気だるさの中に、情熱と幻想(妄想?)が錯綜する詩でしたね。エトナ火山は美の女神ヴィーナスの配偶者とされていますが、その夫の目を盗んでヴィーナスを抱いてしまうなんて、大胆な半獣神の「妄想」ですね。ヴィーナスは、詩の女神ミューズのイメージと重なって、満たされなかった欲望を詩作で昇華させるという意味合いも込められているようです。

『エロディアード』が内にこもった、隠微な女性的世界を描いた作品であるのに対して、『半獣神の午後』は開放的で単純な男性的世界を表現しています。どちらもマラルメの傑作とされるだけあって、味わい深い作品でしたね。

そのマラルメには、別の薔薇も存在しました。明日はその薔薇について紹介いたしましょう。
(続く)

ゆっくりお休み、草むらの半獣神よ!
半獣神
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Re:半獣神の午後5

こんにちは。

小さなこどものような半獣神のやんちゃなようす(笑)と、マラルメの美しい表現のミスマッチが面白い作品でした。美的表現に優れた傑作であることが良くわかります。

お昼寝中の半獣神は海風の当たらない絶好の隠れ家(?)を持っていたのですね。意外な場所でちょとびっくりしました。

Re[1]:半獣神の午後5(02/20)

furafuranさん
こんにちは。

>小さなこどものような半獣神のやんちゃなようす(笑)と、マラルメの美しい表現のミスマッチが面白い作品でした。美的表現に優れた傑作であることが良くわかります。

「エロディアード」と対比させると、面白いですね。「エロディアード」は北欧的だとすると、「半獣神」はラテン的。どちらも若者を描きながら、どこか年老いているようにも思えてきます。年老いた部分はマラルメ自身から来ているのでしょうね。エロディアードと半獣神が出会ったら・・・などと想像してしまいました。

>お昼寝中の半獣神は海風の当たらない絶好の隠れ家(?)を持っていたのですね。意外な場所でちょとびっくりしました。

捨てられた可哀想な猫ちゃんですが、気持ちよさそうに眠っていますね。江ノ島の海の見える高台の草むらに隠れるように眠っていました。どんな夢を見ているのでしょうね。

Re:薔薇シリーズ123(02/20)

ニンフに去られた半獣神が、「半べそをかいて戻ってくるように懇願します」という表現に思わず笑ってしまいました。
何だか・・男性の持つ情けなさの部分がリアルな感じ・・とでも申しますか(笑)

この半獣神は大胆でもあり、ちょっとぬけているような部分もあり、とても人間的で好感が持てます。
一方、エロディアードのような孤高のキャラクター像も私は好きなのです。

Re[1]:薔薇シリーズ123(02/20)

綺竜さん
こんにちは。

>ニンフに去られた半獣神が、「半べそをかいて戻ってくるように懇願します」という表現に思わず笑ってしまいました。
>何だか・・男性の持つ情けなさの部分がリアルな感じ・・とでも申しますか(笑)

お預けを食らった子供のようですね。男性は腕力はありますが、基本的には情けない存在なのですよ(笑)。だから、道端で出会うようなことがあれば、少しだけ微笑んであげてください。

>この半獣神は大胆でもあり、ちょっとぬけているような部分もあり、とても人間的で好感が持てます。

生身の人間という感じがしますね。無鉄砲でいて小心。でもそういう欠点があるからこそ、惹かれる面もあります。

>一方、エロディアードのような孤高のキャラクター像も私は好きなのです。

対照的なキャラクターです。でも、どちらも人間の中に潜む性質ではありますね。そのどちらのキャラをより強く出すかは、本人次第というところでしょうか。
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